た。お幸ちやんとお菊さんはその客の相手になつて笑つてゐた。そしてお菊さんがナマの代を取りに行つて出て来たところで一人の客が入つて来た。それは綺麗な顔のお客であつたが、どうしたのかひどく窶れて黄色な顔色をしてゐた。
「おや、いらつしやいまし、」
お菊さんはかう云つてから、直ぐお幸ちやんの方に注意した。
「お幸ちやん、お客さんよ、」
「た、ア、れ、」
お幸ちやんは椅子に腰をかけたなりに入口の方を見た。
「おや、いらつしやいまし、」
お幸ちやんは急いで立つて行つたが、客の黄色な顔色と左の手の手首まで巻いた繃帯を見て眼を見張つた。
「どうかなさいまして、」
「すこし焼傷をしてね、」
「それは、いけませんね、」
お幸ちやんは暖簾の傍にある外側の椅子を直した。客はそれに腰をかけたが痛さうに顔をしかめた。
「お痛みになりますか、」
「大したことはないがね、どうかすると痛いよ、」
「ひどいお怪我でしたか、」
「大したこともないが、それでもちよいと焼いたよ、」
「それはいけませんね、」
「今日はソーダ水を貰はうか、」
お幸ちやんはなんだか泣きたいやうな気がした。沈んだ顔をして暖簾を潜つてソーダ
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