に行ってしまったが、間もなく、喬生、麗卿、金蓮の三人の邪鬼に枷鎖《かせ》をして伴れてきた。
武士は邪鬼にそれぞれ鞭を加えた。邪鬼は血塗《ちまみ》れになって叫んだ。
「その方どもは、何故に人民を悩ますのじゃ」
道人はまず喬生からその罪を白状さして、それをいちいち書き留めさした。その邪鬼の口供の概略をあげてみると、喬生は、
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伏して念《おも》う、某、室《しつ》を喪って鰥居《かんきょ》し、門に倚って独り立ち、色《しき》に在るの戒を犯し、多欲の求を動かし、孫生が両頭の蛇を見て決断せるに効《なら》うこと能《あた》わず、乃《すなわ》ち鄭子《ていし》が九尾の狐に逢いて愛憐するが如くなるを致す。事既に追うなし。悔ゆとも将《は》た奚《なん》ぞ及ばん。
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符女は、
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伏して念《おも》う、某、青年にして世を棄て、白昼《はくちゅう》隣《りん》なし。六魄離ると雖《いえど》も、一霊未だ泯《ほろ》びず、燈前月下、五百年歓喜の寃家《えんか》に逢い、世上民間、千万人風流の話本《わほん》をなす。迷いて返るを知らず、罪|安《いずく》んぞ逃るべき。
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金蓮は、
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伏して念う、某、殺青《さっせい》を骨《こつ》となし、染素《せんそ》を胎《たい》と成し、墳※[#「土へん+龍」、第3水準1−15−69]《ふんろう》に埋蔵せらる。是れ誰か俑《よう》を作って用うる。面目|機発《きはつ》、人に比するに体を具えて微なり。既に名字の称ありて、精霊の異に乏しかるべけんや。因って計を得たり。豈《あに》敢《あえ》て妖をなさんや。
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武士はその供書を道人の前へさしだした。道人はこれを見て判決をくだした。
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蓋《けだ》し聞く、大禹《たいう》鼎《かなえ》を鋳《い》て、神姦鬼秘《しんかんきひ》、その形を逃るるを得るなく、温※[#「山+喬」、第3水準1−47−89]《おんきょう》犀《さい》を燃して、水府竜宮、倶《とも》にその状を現わすを得たりと。惟《こ》れ幽明の異趣、乃《すなわ》ち詭怪《きかい》の多端、之に遇えば人に利あらず、之に遭えば物に害あり。故に大※[#「厂+萬」、第3水準1−14−84]《だいれい》門に入りて晋景《しんけい》歿《ぼっ》し、妖豕《ようし》野《の》に啼
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