きた。
「お妃さまのお召しじゃ、こっちへ来い」
道度は家来に随いて車の傍へ往った。車は止まっていた。
「その枕をこちらへ」
家来は道度の手から枕を取って、それを車の窓際へさし出した。枕は王妃の手に渡った。
「この枕は、どうしてその方が持ってる」
道度は地べたに頭をつけてから、その枕を手に入れた訳を話した。話しているうちに王妃は泣きだした。
「これは確かに、私の女《むすめ》の持っていたものだ、では、女から貰ったのか」
王妃は止めどもなく泣いた。
道度は王妃の車に随いて秦の王宮へ往った。王宮では道度の言葉に疑いをはさんで、人をやって塚を発掘さし、中の柩を開けて調べさした。二十三年を経た女の死骸は、腐りもせずにそのままになっていた。死骸と一緒に入れた物を詮議した。他の物は皆そのままであったが、黄金の枕のみはなかった。
後で死人の身体を検《あらた》めた。それには情交宛若たるものがあった。
秦の王妃は道度の事情を諒解してしまった。
「これこそ真箇《ほんとう》の婿だ、女《むすめ》もまた神だ、沒くなって二十三年も経って、生きた人と交往《こうおう》していた」
そこで王妃は道度を※[#「馬+付」、第4水準2−92−84]馬都尉《ふばとい》にし、金帛《きんはく》車馬《しゃば》を賜うて本国の隴西へ帰らした。
底本:「中国の怪談(一)」河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年5月6日初版発行
底本の親本:「支那怪談全集」桃源社
1970(昭和45)年11月30日発行
※「沒くなって二十三年も経って」は、底本では「没くなって二十三年も経って」ですが、親本を参照して直しました。
入力:Hiroshi_O
校正:小林繁雄、門田裕志
2003年9月17日作成
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