花屋に往った。肆の中には菊の盆《はち》がうるさいほど列んでいたが、皆枝ぶりの面白い美しい花の咲いたものばかりであった。馬はそれがどうも陶の作った菊に似ていると思った。
 間もなく主人が出てきた。果して陶であった。馬はひどく喜んで別れてからの後の話をして、とうとうそこに泊った。馬は陶に、
「姉さんも待ちかねている、ぜひいっしょに帰ろう」
 と言った。陶は言った。
「金陵は僕の故郷ですから、ここで結婚しようと思ってるのです、すこしばかり金がありますから、姉さんにやってください、年末になったら、ちょっと往きますから」
 馬は、
「とにかく一度帰ろう、姉さんも待ちかねてるから」
 と言って聴かなかった。そしてしきりに帰ることをすすめて、そのうえで言った。
「家は幸いに金があるから、ただ坐ってくらしておればいいのだ、もう商売なんかしなくてもいい」
 馬はそこで肆の中へ坐って、肆の男に価《あたい》を言わして、やすねで売ったので、数日のうちに売りつくした。馬はそれから陶に逼《せま》って旅準備《たびじたく》をして、舟をやとうてとうとう北へ帰ってきた。そして我家へ帰ってみると、黄英はもう家の掃除をして、
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