首のまわりに黒い巾《きれ》を巻いているだけが違っていた。
 愛卿の霊は趙の方を見て拝《おじぎ》をしたが、それが終ると悲しそうな声を出して歌いだした。それは沁園春《しんえんしゅん》の調にならってこしらえた自作の歌であった。
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一別三年
一日三秋
君何ぞ帰らざる
記す尊姑《そんこ》老病《ろうびょう》
親《みずか》ら薬餌《やくじ》を供す
塋《けい》を高くして埋葬し
親《みずか》ら麻衣《まい》を曳く
夜は燈花を卜《ぼく》し
晨《あした》に喜鵲《きじゃく》を占う
雨梨花《あめりか》を打って昼扉《ひると》を掩《おお》う
誰か知道《し》らん恩情永く隔《へだた》り
書信全く稀ならんとは

干戈《かんか》満目《まんもく》交《こもごも》揮《ふる》う
奈《いずく》んぞ命薄く時|乖《そむ》き
禍機《かき》を履《ふ》んで鎖金《しょうきん》帳底《ちょうてい》に向う
猿驚き鶴怨む
香羅巾下《こうらきんか》
玉と砕け花と飛ぶ
三貞を学ばんことを要せば
須《すべから》く一死を拆《す》つべし
旁人《ぼうじん》に是非を語らるることを免る
君相念いて算除《さんじょ》せよ
画裏に崔徽《さいき》を見るに非ず
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