った。嫂は笑っていった。
「どうも別嬪《べっぴん》らしいのですね。」
玉はいった。
「子供がどうして佳《い》い悪いがわかるものかね。たとえよかったにしても、秦には及ばないよ。秦の方がだめになったら、その時にしても晩《おそ》くはないよ。」
※[#「王+玉」、第3水準1−87−90]は黙って兄夫婦の前をさがった。三、四日して玉は途《みち》を歩いていた。一人の女が涙を流しながら向うへいっていた。玉は馬を停《と》めてそっと見た。それはこの世に住んでいる人にはほとんど較べる者のない美しい女であった。玉は従僕に訊かした。
「あなたはどうした方です。」
女はいった。
「私はもと甘家の弟さんと許婚《いいなずけ》になっていたものですが、家が貧しくって、遠くへ徒《うつ》ったものですから、とうとう音信がなくなりました、それが今度帰って聞きますと、甘の方では、私との約束を敗って、他と許婚なさるそうですから、甘のお兄さんの所へいって、私を置いてもらおうと思ってゆくところです。」
玉は驚き喜びをしていった。
「甘の兄は、私だ。父が約束したことは知らないが、私の家はすぐそこだから、一緒に来てください。相談しますから。」
玉はそこで馬からおりて一緒に歩いて帰った。女は途みち自分でいった。
「私は幼な名を阿英《あえい》というのです。家には兄弟もありません。ただ外姉《いとこ》の秦が同居しているばかりです。」
玉はそこで彼の夜の美しい女のいったのは、この女であろうと思った。そして※[#「王+玉」、第3水準1−87−90]と結婚さした。そこで玉はそのことをその家へ通知しようとした。阿英は固くそれを止めた。玉は心で弟が佳い婦人を得たことを喜んだが、しかし、軽卒なことをしては世間の物議《ぶつぎ》を招く恐れがあるので、それについては心配もしていた。
阿英は矜《つつし》み深くて、身をきちんとしていた。そしてものをいうには、あまえるようなやわらかな言葉づかいをした。その阿英は嫂に母のように事《つか》えた。嫂《あによめ》もまた阿英をひどく可愛がった。
中秋明月の夜が来た。※[#「王+玉」、第3水準1−87−90]夫妻は自分の室で酒を飲んでいた。嫂のよこした婢《じょちゅう》が阿英を呼びに来た。※[#「王+玉」、第3水準1−87−90]は阿英をやるのが厭であったからおもしろくなかった。阿英は婢を先に帰して
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