太はおいてけ堀に鮒が多いと聞いたので釣りに往《い》った。両国橋《りょうごくばし》を渡ったところで、知りあいの老人に逢《あ》った。
「おや、金公か、釣に往くのか、何処だ」
「お竹蔵の池さ、今年は鮒が多いと云うじゃねえか」
「彼処《あすこ》は、鮒でも、鯰でも、たんといるだろうが、いけねえぜ、彼処には、怪物《えてもの》がいるぜ」
金太もおいてけ堀の怪《あやし》い話は聞いていた。
「いたら、ついでに、それも釣ってくるさ。今時、唐傘のお化でも釣りゃ、良い金になるぜ」
「金になるよりゃ、頭からしゃぶられたら、どうするのだ。往くなら、他へ往きなよ、あんな縁儀《えんぎ》でもねえ処《ところ》へ往くものじゃねえよ」
「なに、大丈夫ってことよ、おいらにゃ、神田明神《かんだみょうじん》がついてるのだ」
「それじゃ、まあ、往ってきな。其のかわり、暗くなるまでいちゃいけねえぜ」
「魚が釣れるなら、今晩は月があるよ」
「ほんとだよ、年《とし》よりの云うことはきくものだぜ」
「ああ、それじゃ、気をつけて往ってくる」
金太は笑い笑い老人に別れて池へ往った。池の周囲《まわり》には出たばかりの蘆《あし》の葉が午《ひる》
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