『黒影集』の序詞
田中貢太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)醇粋《じゅんすい》
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 伝奇物語に興味を有する私は、折にふれて支那の随筆小説を読んだ。読むと云っても、もともと消閑の具としてであるから、意の赴くままに眼の行くままに読むと云う有様で、巻を追うて通読したと云う物は殆ど無いが、それでも長い時間の間には、かなり読んだ。そんなことで、時とすると怪譚に筆を著けることがあって、既に『怪談』と云う小冊子まで作っているが、雑駁で不統一で、どっちから云っても欠点だらけだし、その上、後からも同種類の材料が出来たので、怪談の中からも取り、又、他の冊子へ収めてある物を取って、それを交えて更めて一冊とすることにした。しかし、これとして醇粋《じゅんすい》な物とは云えないが、はじめの物よりは、幾等か内容が豊富なのが取得であろうと思う。
 編中の物語は、創作、半創作、伝説、筋書などで、大正の雨月とするには、まだまだ段階の多いのを恥ずる次第である。が、そして、この冊子の中で、土佐に関する伝説の多くは、土佐佐川町川田信義君の蒐集していた物である。私はこの冊子の刊行に際して、
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