らなかつた。ところがこんなことがあつた。三月の修業証書授与式の時に、此木田の受持の組に無欠席で以て賞品を貰つた生徒が二人あつた。甲田は偶然その二人が話してるのを聞いた。一人は、俺は三日休んだ筈だと言つた。一人は、俺もみんなで七日許り休んだ筈だと言つた。そして二人で、先生が間違つたのだらうか何《ど》うだらうかと心配してゐた。甲田は其時思ひ当る節《ふし》が二つも三つもあつた。そこで翌月から自分も実行した。今でもやつてゐる。それから斯《か》ういふことがあつた。或朝田辺校長が腹が痛いといふので、甲田が掛持《かけもち》して校長の受持つてる組へも出た。出席簿をつけようとすると、一週間といふもの全然《まるで》出欠が付いてない。其処《そこ》で生徒に訊いて見ると、田辺先生は時々しか出席簿を付けないと言つた。甲田は潜《ひそ》かに喜んだ。校長も矢張遣るなと思つた。そして女教師の福富も矢張《やつぱ》り、遣るだらうか、女だから遣らないだらうかという疑問を起した。或時二人|限《きり》ゐた時、直接訊いて見た。福富は真顔《まがほ》になつて、そんな事はした事はありませんと言つた。甲田は、女といふものは正直なものだと思つ
前へ
次へ
全27ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング