白丸傍点]の第一回編輯会議。此新聞は、企業家としては随分名の知れてゐる山県勇三郎氏が社主、其令弟で小樽にゐる、これも敏腕の聞え高き中村定三郎氏が社主を代表して、社長は時の道会議員なる老巧なる政客白石義郎氏(今年根室郡部から出て代議士となつた。)、編輯は主筆以下八名。初号は十五日に出す事、主筆が当分総編輯をやる事、其他巨細議決して、三面の受持は野口君と予と、モ一人外交専門の西村君と決つた。
◎此会議が済んで、社主の招待で或洋食店に行く途中、時は夕方、名高い小樽の悪路を肩を並べて歩き乍ら、野口君と予とは主筆排斥の隠謀を企てたのだ。編輯の連中が初対面の挨拶をした許りの日、誰が甚※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《どんな》人やらも知らぬのに、随分乱暴な話で、主筆氏の事も、野口君は以前《まへ》ら知つて居られたが、予に至つては初めて逢つて会議の際に多少議論しただけの事。若し何等かの不満があるとすれば、其主筆の眉が濃くて、予の大嫌ひな毛虫によく似てゐた位のもの。
◎此隠謀は、野口君の北海道時代の唯一の波瀾《やま》であり、且つは予の同君に関する思出の最も重要
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