悲しき思出
(野口雨情君の北海道時代)
石川啄木

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)恰度《ちやうど》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)硬派記者|小国《をぐに》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]
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◎本年四月十四日、北海道小樽で逢つたのが、野口君と予との最後の会合となつた。其時野口君は、明日小樽を引払つて札幌に行き、月の末頃には必ず帰京の途に就くとの事で、大分元気がよかつた。恰度《ちやうど》予も同じ決心をしてゐた時だから、成るべくは函館で待合して、相携へて津軽海峡を渡らうと約束して別れた。不幸にして其約束は約束だけに止まり、予は同月の二十五日、一人函館を去つて海路から上京したのである。
◎其野口君が札幌で客死したと、九月十九日の読売新聞で読んだ時、予の心は奈何《どう》であつたらう。知る人の訃音に接して悲まぬ人はない。辺土の秋に客死したとあつては猶更の
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