こぶ。
*
解《と》けがたき
不和《ふわ》のあひだに身を処《しよ》して、
ひとりかなしく今日も怒《いか》れり。
猫を飼《か》はば、
その猫がまた争《あらそ》ひの種となるらむ、
かなしきわが家《いへ》。
俺《おれ》ひとり下宿屋にやりてくれぬかと、
今日もあやふく、
いひ出《い》でしかな。
ある日、ふと、やまひを忘れ、
牛の啼《な》く真似《まね》をしてみぬ、――
妻子《つまこ》の留守に。
かなしきは我が父!
今日も新聞を読みあきて、
庭に小蟻《こあり》と遊べり。
ただ一人の
をとこの子なる我はかく育てり。
父母もかなしかるらむ。
茶まで断《た》ちて、
わが平復《へいふく》を祈りたまふ
母の今日また何か怒《いか》れる。
今日ひょっと近所の子等《こら》と遊びたくなり、
呼べど来らず。
こころむづかし。
やまひ癒《い》えず、
死なず、
日毎《ひごと》にこころのみ険《けは》しくなれる七八月《ななやつき》かな。
買いおきし
薬つきたる朝に来し
友のなさけの為替《かはせ》のかなしさ。
児を叱れば、
泣いて、寝入りぬ。
口すこしあけし寝顔にさはりてみるか
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