て、九時頃に寝る事になつた。八畳間に寝具が三つ、二人は何れへ寝たものかと立つてゐると、源助は中央の床へ潜り込んで了つた。仕方がないので、二人は右と左に離れて寝たが、夜中になつてお定が一寸目を覚ました時は、細めて置いた筈の、自分の枕辺《まくらもと》の洋燈《らんぷ》が消えてゐて、源助の高い鼾《いびき》が、怎やら畳三畳許り彼方《むかう》に聞えてゐた。
翌朝は二人共源助に呼起されて、髪を結ふも朝飯を食ふも※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]卒《そそくさ》に、五時発の上り一番汽車に乗つた。
七
途中で機関車に故障があつた為、三人を載《の》せた汽車が上野に着いた時は、其日の夜の七時過であつた。長い長いプラツトフオーム、潮《うしほ》の様な人、お八重もお定も唯小さくなつて源助の両袂に縋つた儘、漸々《やうやう》の思で改札口から吐出されると、何百輛とも数知れず列んだ腕車《くるま》、広場の彼方は昼を欺く満街《まんがい》の燈火《ともしび》、お定はもう之だけで気を失ふ位おツ魂消《たまげ》て了つた。
腕車《くるま》が三輛、源助にお定にお八重といふ順で駆け出した。お定は生れて初めて腕車に乗
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