一緒に晩餐《めし》を了へて、明日の朝は一番汽車だからといふので、其晩二人も其宿屋に泊る事にした。
源助は、唯一本の銚子に一時間も費《かゝ》りながら、東京へ行つてからの事――言語《ことば》を可成《なるべく》早く改《あらた》めねばならぬとか、二人がまだ見た事のない電車への乘方とか、掏摸《すり》に氣を附けねばならぬとか、種々《いろ/\》な事を詳《くど》く喋《しやべ》つて聞かして、九時頃に寢る事になつた。八疊間に寢具が三つ、二人は何れへ寢たものかと立つてゐると、源助は中央《まんなか》の床へ潜り込んで了つた。仕方がないので二人は右と左に離れて寢たが、夜中になつてお定が一寸目を覺ました時は、細めて置いた筈の、自分の枕邊《まくらもと》の洋燈《ランプ》が消えてゐて、源助の高い鼾《いびき》が、怎《どう》やら疊三疊許り彼方《あつち》に聞えてゐた。
翌朝は二人共源助に呼起されて、髮を結ふも朝飯を食ふも夙卒《そゝくさ》に、五時發の上り一番汽車に乘つた。
七
途中で機關車に故障があつた爲、三人を乘せた汽車[#「車」は底本では「軍」]が上野に着いた時は、其日の夜の七時過であつた。長い長いプラ
前へ
次へ
全82ページ中41ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング