両隣の子供、一人は一級上の男で、一人は同じ級の女の児であつたが、何方も其時半紙何帖かを水引で結んだ御褒賞を貰つたので、私は流石に、子供心にも情ない様な気がして、其授与式の日は、学校から帰ると、例《いつも》の様に戸外に出もせず、日が暮れるまで大きい囲炉裏の隅に蹲《うずくま》つて、浮かぬ顔をして火箸許り弄《いぢ》つてゐたので、父は夕飯が済んでから、黒い羊※[#「羔/((美−大)/人)」、167−上−12]を二本買つて来て呉れて、お前は一番|稚《ちひさ》いのだからと言つて慰めて呉れた。
 それも翌日になれば、もう忘れて了つて、私は相変らず時々午後の課業を休み/\してゐたが、七歳の年が暮れての正月、第三学期の始めになつて、学校には少し珍らしい事が起つた。それは、佐藤藤野といふ、村では儔《くら》べる者の無い程美しい女の児が、突然一年生に入つて来た事なので。
 百何人の生徒は皆目を聳《そばだ》てた。実際藤野さんは、今想うても余り類のない程美しい児だつたので、前髪を眉の辺まで下げた顔が円く、黒味勝の眼がパツチリと明るくて、色は飽迄白く、笑ふ毎に笑窪《ゑくぼ》が出来た。男生徒は言はずもの事、女生徒とい
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