たが、此時、『成るとも。成るとも。』と言つて皆を驚かした。私は顔を真赤にして矢庭に駈出して了つた。
いくら子供でも、男と女は矢張男と女、学校で一緒に遊ぶ事などは殆んど無かつたが、夕方になると、家々の軒や破風に夕餉《ゆふげ》の煙の靉《たなび》く街道に出て、よく私共は宝奪ひや鬼ごツこをやつた。時とすると、それが男組と女組と一緒になる事があつて、其※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]時は誰しも周囲《あたり》が暗くなつて了ふまで夢中になつて遊ぶのであるが、藤野さんが鬼になると、屹度私を目懸けて追つて来る。私はそれが嬉しかつた。奈何《どんな》に※[#「兀のにょうの形+王」、第3水準1−47−62]弱《かよわ》い体質でも、私は流石に男の児、藤野さんはキツと口を結んで敏く追つて来るけれど、容易に捉らない。終ひには息を切らして喘々《ぜいぜい》するのであるが、私は態《わざ》と捉まつてやつて可いのであるけれど、其処は子供心で、飽迄も/\身を翻して意地悪く遁げ廻る。それなのに、藤野さんは鬼ごツこの度、矢張私許り目懸けるのであつた。
新家の家には、藤野さんと従兄弟
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