か二度目の二年生の八歳の年、夏休み中の出来事と憶えてゐる。も一つも、暑い盛りの事であつたから、矢張其頃の事であつたらう。
今では文部省令が厳しくて、学齢前の子供を入学させる様な事は全く無いのであるが、私の幼かつた頃は、片田舎の事でもあり、左程面倒な手続も要らなかつた様である。でも数へ年で僅か六歳の、然も私の様に※[#「兀のにょうの形+王」、第3水準1−47−62]弱《かよわ》い者の入学《はひ》るのは、余り例のない事であつた。それは詰り、平生私の遊び仲間であつた一歳二歳《ひとつふたつ》年長の子供等が、五人も七人も一度に学校に上つて了つて、淋しくて/\耐《たま》らぬ所から、毎日の様に好人物の父に強請《ねだ》つた為なので、初めの間こそお前はまだ余り小いからと禁《と》めてゐたが、根が悪い事ぢや無し、父も内心には喜んだと見えて、到頭或日学校の高島先生に願つて呉れて、翌日からは私も、二枚折の紙石盤やら硯やら石筆やらを買つて貰つて、諸友《みんな》と一緒に学校に行く事になつた。されば私の入学は、同じ級の者より一ヶ月も後の事であつた。父は珍らしい学問好で、用のない冬の晩などは、字が見えぬ程煤びきつて、
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