さうに言つて、又|俯臥《うつぷ》した。
 定老爺は、暫く凝《ぢつ》と此女乞食を見てゐたが、『村まで行つたら可《よ》がべえ。醫者樣もあるし巡査も居るだア。』と言捨てゝ、ガタ/\荷馬車を追つて行つて了つた。
 私共は、ズラリと女の前に立披《たちはだか》つて見てゐた。稍あつてから、豐吉が傍に立つてゐる萬太郎といふのの肩を叩いて、『汚ねえ乞食《ほいど》だでア喃。首玉ア眞黒だ。』
 草の中の赤兒が、怪訝《けげん》相《さう》な顏をして、四這《よつばひ》になつた儘私共を見た。女はビクとも動かぬ。
 それを見た豐吉は、遽に元氣の好い聲を出して、『死んだどウ、此|乞食《ほいど》ア。』と言ひながら、一掴みの草を採つて女の上に投げた。『草かけて埋めてやるべえ。』
 すると、皆も口々に言罵つて、豐吉のした通りに草を投げ始めた。私は一人遠くに離れてゐる樣な心地でそれを見てゐた。
 と、赤兒が稍大きい聲で泣き出した。女は草から顏を擡《もた》げた。
『やあ、生きだ/\。また生きだでア。』と喚《わめ》きながら、皆は豐吉を先立てゝ村の方に遁げ出した。私は怎《どう》したものか足が動かなかつた。
 醜い乞食の女は、流れた血
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