をついだ。『まあ何方《どつち》にした所で、祖母さんの病氣を癒すのが一番で御座いますがね。……何と返事したものかと思ひまして。』
『然うね。』と云つて、智惠子は睫毛の長い眼を瞬《しばたゝ》いてゐたが、『忝《かたじけ》ないわ、私なんかに御相談して下すつて。……あの小母さん、兎も角今のお家の事情を詳しく然《さ》う言つて上げた方が可かなくつて? 被行《いらつしや》る方が可いと、まあ私だけは思ふわ。だけど怎《ど》うせ今直ぐとはいかないんですから。』
『然うで御座いますねえ。』とお利代は俯向いて言つた。實は自分も然う思つてゐたので。
一〇
『然うなすつた方が可いわ、小母さん。』と智惠子は俯向いたお利代の胸の邊を昵《ぢつ》と瞶《みつ》めた。
『然うで御座いますねえ。』と同じ事を繰返して、稍あつてお利代は思ひ餘つた樣な顏をあげたが、『怎うせ行くとしましても、それやまあ祖母さんが何《ど》うにか、あの快癒《なほ》つてからの事で御座いますから、何時の事だか解りませんけれども、何だかあの、生れ村を離れて北海道あたりまで行つて、此先|何《ど》うなることかと思ふと……。』
『それやね、決めるまでに
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