。』と言ひながら、富江は何やら袂から出して掌に忍ばせて昌作に渡す。
 昌作は極り惡るさうにそれを受けた。そして、『可し、可し。』と言ひながら庭下駄を穿いて、『オイ、志郎! 好い物があるぞ。』と聲高に母屋の方へ行く。
『あら可けませんよ。人に見せちや。』と富江は其後ろから叫んで、そして、面白さうにホホホヽと笑つた。
 二人は好奇心に囚はれた。『何です、何です?』と信吾が言ふ。
『何でもありませんよ。』と、濟し返つて、吉野の顏をちらと見た。
『怪しいねえ、吉野君。』
『ハツヽヽ。』
『豈夫《まさか》! 信吾さんたら眞箇《ほんと》に人が惡い。』と何故か富江は少し愼《つゝま》しくしてゐる。
 其處へ、色のいゝ甜瓜《まくはうり》を盛つた大きい皿を持つて、靜子が入つて來た。『餘り甘味《おいし》しくないんですけど……。』
『何だ? 甜瓜《まくはうり》か! 赤痢になるぞ。』と信吾が言つた。
『マ兄樣は!』と言つて、『眞箇《ほんと》でせうか神山|樣《さん》、赤痢が出たつてのは?』
『眞箇《ほんと》には眞箇《ほんと》でせうよ。隔離所は三人とか收容したつてますから。ですけれど大丈夫ですわねえ、餘程離れた處で
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