下さい、日向|樣《さん》、いや、それより温《あつた》めてやらなくちや。』と、吉野は裙やら袖やら濡れた己が着物の帶を解いて、肌と肌、泣く兒をピッタリと抱いて前を合せる。
『私抱きませう。』と智惠子が言つた。
『構ひません。冷くて氣持が好いですよ。さ、もう泣かなくて可い、好い兒だ! 好い兒だ!……イヤ、恁《か》うしてるよりや家へ歸つて寢かした方が好い。然《さ》う爲《し》ませう日向|樣《さん》! 此儘お送りしますから。温《あつた》めなくちや、惡い!』
『そンだ、其方が好《よ》うがんす。』と農夫も口を添へる。
『濟みません、貴方!』と智惠子は心を籠めて言つて、
『私がうつかりしてゐて這※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《こんな》事になつて……。』
『然《さ》うぢやない、僕が惡いんです。僕が先に川に入つて見せたんだから!』
『否、私……夢見る樣な氣持になつてゐて、つい……。』
 その顏を、吉野はチラと見た。

      六

 星影|疎《まば》らに、川瀬の音も遠くなつた。熟した麥の香が、暗い夜路に漂うてゐる。
 先に立つ女兒《こども》等の心々は、まだ
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