くする。見よう見まねで、静子の二人の妹――十三の春子に十一の芳子、まだ七歳《ななつ》にしかならぬ三男の雄三といふのまで、祖父母や昌作、その姉で年中|病床《とこ》についてゐるお千世《ちせ》などを軽蔑する。其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《そんな》間《なか》に立つてゐる温和《おとな》しい静子には、それ相応に気苦労の絶えることがない。実際、信吾でも帰つて色々な話をしてくれたり、来客でもなければ、何の楽みもないのだ。尤も、静子は譬へ甚※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《どんな》事があつても、自分で自分の境遇に反抗し得る様な気の強い女ではないのだが。
 画家の吉野満太郎が来たのは、又しても静子に一つの張合を増した。吉野の、何処か無愛相な、それでゐてソツのない態度は、先づ家中《うちじゆう》の人に喜ばれた。左程長くはないが、信吾とは随分親密な間柄で、(尤も吉野は信吾を寧ろ弟の様に思つてるので)この春は一緒に畿内《きない》の方へ旅もした。今度はまた信吾の勧めで一夏を友の家に過す積りの定《きま》つた職業《しごと》
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