祈つてるといふので。――そして、祖母の死ぬのを待つて函館の先の夫の許へ行くのだ、と伝へられた。
快く晴れた或日の午前であつた。昌作は浮かぬ顔をして町を歩いてゐた。そして郵便局の前へ来ると、懐から二枚の葉書を出してポストに入れた。――昌作は米国に行くことも出来ず、明日発つて十里許りの山奥の或小学校の代用教員に赴任することになつた。――その葉書は盛岡の病院なる智恵子と山内に宛てたもの。──山内には手短く見舞の文句と自身の方の事を書いたが、智恵子への一枚には、気取つた字で歌一首。
『秋の声まづ逸早《いちはや》く耳に入るかゝる性《さが》有《も》つ悲むべかり。』
渋民村に秋風が見舞つた。[#地から1字上げ](大尾)
[#ここから2字下げ]
(附記。この一篇は作者が新聞小説としての最初の試作なりき。回を重ぬる六十回、時歳末に際して予期の如く事件を発展せしむる能はず茲《ここ》に一先づ擱筆するに到れるは作者の多少遺憾とする所なり。他日若し幸ひにして機会あらば、作者は稿を改めて更に智恵子吉野を主人公としたる本篇の続篇を書かむと欲す。}
[#ここで字下げ終わり]
[#地から1字上げ]〔「東京毎日新聞
前へ
次へ
全217ページ中216ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング