つたのね?』
すると昌作は、忽ち不快な顔をして黙つた。
『甚※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《どんな》に豪いの、その方は?』
『時にですな、』と昌作は付かぬ事を言ひ出した。『今日は貴女に用を頼まれて来たんだ。』
『オヤ、誰方《どなた》から?』
其時小使が駄菓子の袋を恭《うやうや》しく持つて入つて来た。
(七)の二
『当てて御覧なさい。』と昌作はシタリ顔に拗ねる。
其顔を、富江はマジ/\と見てゐたが、小使の出てゆくのを待つて、
『信吾|様《さん》から?』
ピクリと昌作の眉が動いた。そして眼鏡の中で急《いそ》がしく瞬きをしながら顔を大きく横に振る。
『そんなら、誰方《どなた》?』
『無論、貴女の知つた人からだ。』と小憎らしく済したものだ。
『懊《じれ》つたい!』と自暴《やけ》に体を顫はせて、
『よ、誰方からツてばサ。』
『ハツハハ、解りませんか?』と、何処までも高く踏んで出る。
『好いわ、モウ聞かなくつても。』
『それぢや俺が困る。実はですね。』
『知りません。』
『登記所の山内君からだ。以前《これまで》貴女から「恋愛詩評
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