切れたのを着てゐて、白髮交りの頭に冠つた淺黄の手拭の上には、白く灰がかゝつてゐた。
『然うでもない。』と言つて、渠は足駄を脱いだ。上框《あがりがまち》には妻の敏子が、垢着いた木綿物の上に女兒を負つて、頭にかゝるほつれ毛を氣にしながら、ランプの火屋《ほや》を研いてゐた。
『今夜は客があるぞ、屹度。』
『誰方?』
それには答へないで、
『あゝ、今日は急しかつた。』と言ひながら、健は勢ひよくドン/\梯子を上つて行つた。[#地から1字上げ](その一、終)
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(予が今までに書いたものは、自分でも忘れたい、人にも忘れて貰ひたい。そして、予は今、予にとつての新らしい覺悟を以てこの長篇を書き出して見た。他日になつたら、また、この作をも忘れたく、忘れて貰ひたくなる時があるかも知れぬ。――啄木)
[#ここで字下げ終わり]
底本:「石川啄木作品集 第三巻」昭和出版社
1970(昭和45)年11月20日発行
入力:Nana ohbe
校正:林 幸雄
2003年10月23日作成
青空文庫ファイル:
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