れでもした樣に、ピクとも動かぬ。あらゆる手頼《たより》の綱が一度に切れて了つた樣で、暗い暗い、深い深い、底の知れぬ穴の中へ、獨りぼつちの塊が石塊の如く落ちてゆく、落ちてゆく。そして、堅く瞑つた兩眼からは、涙が瀧の如く溢れた。瀧の如くとは這※[#「麻かんむり/「公」の「八」の右を取る」、第4水準2−94−57]時に形容する言葉だらう。抑へても溢れる、抑へようともせぬ。噛りついた布團の裏も、枕も、濡れる、濡れる、濡れる。………………



底本:「石川啄木作品集 第三巻」昭和出版社
   1970(昭和45)年11月20日発行
※底本の、「掲げられなかつた、松太郎は」は「掲げられなかつた。松太郎は」に、「酷《ひど》く弱い頭を腦まされて」は「酷《ひど》く弱い頭を惱まされて」に、「小動《こゆるぎ》ぎもせぬ。」は「小動《こゆる》ぎもせぬ。」に、それぞれあらためました。
※底本の「『晩方に庭の」の前の改行は、とりました。
※疑問点の確認にあたっては、「啄木全集 第三巻」筑摩書房、1967(昭和42)年7月30日初版第1刷発行を参照しました。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号
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