了つた。會つて見て其の人の爲人《ひとゝなり》を知り、其の人の文學的素質に就いて考へる前に、先づ憐愍と輕侮と、時としては嫌惡を注がねばならぬ樣になつた。殊に、地方にゐて何の爲事も無くぶらぶらしてゐながら詩を作つたり歌を作つたりして、各自他人からは兎ても想像もつかぬ樣な自矜を持つてゐる、そして煮え切らぬ謎の樣な手紙を書く人達の事を考へると、大きな穴を掘つて、一緒に埋めて了つたら、何んなに此の世の中が薩張《さつぱり》するだらうとまで思ふ事がある樣になつた。
 實社會と文學的生活との間に置かれた間隔をその儘にして笑つて置かうとするには、私は餘りに「俗人」であつた。――若しも私の文學的努力(と言ひ得るならば)が、今迄に何等かの効果を私に齎《もたら》してゐたならば、多分私も斯うは成らなかつたかも知れない。それは自分でも悲い心を以て思ひ※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]す事が無いでもない。然し文學的生活に對する空虚の感は、果して唯文壇の劣敗者のみの問題に過ぎないのだらうか。

 此處では文學其物に就いて言つてるのではない。
 文學と現實の生活とを近ける運動は、此の數年の間我々の眼の前で花々し
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