すと、行手に方つて蓊乎《こんもり》として木立が見え、大きい白いペンキ塗の建物も見えた。間もなく其建物の前を過ぎて、汽車は札幌驛に着いた。
乘客の大半は此處で降りた。私も小形の鞄一つを下げて乘降庭《プラツトホーム》に立つと、二歳になる女の兒を抱いた、背の高い立見君の姿が直ぐ目についた。も一人の友人も迎へに來て呉れた。
『君の家は近いね?』
『近い? どうして知つてるね?』
『子供を抱いて來てるぢやないか。』
改札口から廣場に出ると、私は一寸停つて見たい樣に思つた。道幅の莫迦に廣い停車場通りの、兩側のアカシアの街※[#「木+越」、第3水準1−86−11]《なみき》は、蕭條たる秋雨に遠く/\煙つてゐる。其下を往來する人の歩みは皆靜かだ。男も女もしめやかな戀を抱いて歩いてる樣に見える、蛇目の傘をさした若い女の紫の袴が、その周匝《あたり》の風物としつくり調和してゐた。傘をさす程の雨でもなかつた。
『この逵《とほり》は僕等がアカシヤ街《がい》と呼ぶのだ。彼處に大きい煉瓦造りが見える。あれは五番館といふのだ。………奈何《どう》だ、氣に入らないかね?』
『好い! 何時までも住んでゐたい――』
實
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