餘程考へなくちや決行されない點もある――』
然う言つて後藤君の話した話は次の樣なことであつた。――今度小樽に新らしい新聞が出來る。出資者はY――氏といふ名のある事業家で、創業資は二萬圓、維持費の三萬圓を年に一萬宛注込んで、三年後に獨立經濟にする計畫である。そして、社長には前代議士で道會に幅を利かしてゐるS――氏がなるといふので。
『主筆も定つてる。』と友は言葉を亞《つ》いだ。『先にH――新聞にゐた山岡といふ人で、僕も二三度面識がある、その人が今編輯局編成の任を帶びて札幌に來てゐる。實は僕にも間接に話があつたので、今日行つて打突《ぶつつか》つて見て來たのだ。』
『成程。段々面白くなつて來たぞ。』
『無論その時君の話もした。』と熱心な調子で言つた。暗い町を肩を並べて歩き乍ら、稀なる往來の人に遠慮を爲《し》い/\密《ひそ》めた聲も時々高くなる。後藤君は暗い中で妙な手振をし乍ら、『僕の事はマア不得要領な挨拶をしたが、君の事は君さへ承知すれば直ぐ決る位に話を進めて來た。無論現在よりは條件も可ささうだ。それに君は家族が小樽に居るんだから都合が可いだらうと思ふんだ。』
『それア先《ま》アさうだ。が
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