−94−57]處で一時間も二時間も密談してると人に怪まれるし、第一此方も氣が塞《つま》る、歩き乍らの方が可い。』
『何をしてるね、隣の奴は?』
『其※[#「麻かんむり/「公」の「八」の右を取る」、第4水準2−94−57]聲で言ふと聞えるよ。何有《なあに》、道廳の學務課へ出てゐる小役人だがね。昔から壁に耳ありで、其※[#「麻かんむり/「公」の「八」の右を取る」、第4水準2−94−57]處から計畫が破れるかも知れないから喃。』
『一體マア何の話だらう? 大層勿體をつけるぢやないか? 葢許り澤山あつて、中に甚※[#「麻かんむり/「公」の「八」の右を取る」、第4水準2−94−57]《どんな》美味い饅頭が入つてるんか、一向アテが付かない。』
『ハハヽヽ。マア出懸けようぢやないか?』
で、二人は戸外《そと》に出た。後藤君は既う葢を取つた茶壺の事は忘れて了つた樣子であつた。私は、この煮え切らぬ顏をした三十男が、物事を恁うまで祕密にする心根に觸れて、そして、見|窄《すぼ》らしい鳥打帽を冠り、右の肩を揚げてズシリ/\と先に立つて階段を降りる姿を見下し乍ら、異樣な寒さを感じた。出かけない主義が、何も爲出
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