の「八」の右を取る」、第4水準2−94−57]に抱いてゐて?』
『否、孃ちやん、サア、お土産を買つて來て下さいツて、マア何とも仰しやらない!』
と言ひながら、耐らないと言つた態《ふう》に頬擦りをする。赤兒を可愛がる處女には男の心を擽《くすぐ》る樣な點《ところ》がある。私は二三歩眞佐子に近づいたが、氣がつくと玄關にはまだ妻が立つてるので、其儘門外へ出て了つた。
歸つて來た時は、小樽へ歸る私の妻を停車場まで見送りに行つた眞佐子も、今し方歸つた許りといふところであつた。その晩は、立見君は牧師の家に出かけて行つたので、私は室にゐて手紙などを書いた。茶の間からは女達の話聲が聞える。眞佐子は私の子供の可愛かつた事を頻りに數へ立てゝてゐる、立見君の細君もそれに同じてはゐたが、何となく氣の乘らぬ聲であつた。
翌日は社に出てから初めての日曜日、休みではないが、明くる朝の新聞は四頁なので四時少し前に締切になつた。後藤君はその日缺勤した。歸つて來て寢ころんでゐると、後藤君が相變らずの要領を得ない顏をして入つて來て、
『少し相談があるから、今夜七時半に僕の下宿へ來給へ。僕は他《よそ》を廻つてそれ迄に歸
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