、無論君も行くんだらう?』
『其處だテ。奈何も其處だテ――』
『何が?』
『主筆は十月一日に第一囘編輯會議を開く迄に顏觸れを揃へる責任を受負つたんで、大分|焦心《あせ》つてる樣だがね。』
『十月一日! あと九日しかない。』
『然うだ。――實はね、』と言つて、後藤君は急に聲を高くした。『僕も大いに心を動かしてる。大いに動かしてゐる。』
 然うして二度許り右の拳を以て空氣を切つた。
『それなら可いぢやないか?』と私も聲を高めた。『奈何《どう》せ天下の浪人共だ。何も顧慮する處はない。』
『其處だ。君はまだ若い、僕はも少し深く考へて見たいんだ。』
『奈何考へる?』
『詰りね、單に條件が可いから行くといふだけでなくね。――それは無論第一の問題だが――多少君、我々の理想を少しでも實行するに都合が好い――と言つた樣な點を見付けたいんだ。』(未完)



底本:「石川啄木作品集 第三巻」昭和出版社
   1970(昭和45)年11月20日発行
※底本の「『奈何《どうせ》せ」は、「『奈何《どう》せ」」にあらためました。
※疑問点の確認にあたっては、「啄木全集 第三巻」筑摩書房、1967(昭和42)年7月30日初版第1刷発行を参照しました。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:Nana ohbe
校正:林 幸雄
2003年10月23日作成
青空文庫作成ファイル:
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