《くわ》しく述べるまでもない。我々日本の青年はいまだかつてかの強権に対して何らの確執をも醸《かも》したことがないのである。したがって国家が我々にとって怨敵となるべき機会もいまだかつてなかったのである。そうしてここに我々が論者の不注意に対して是正《ぜせい》を試みるのは、けだし、今日の我々にとって一つの新しい悲しみでなければならぬ。なぜなれば、それはじつに、我々自身が現在においてもっている理解のなおきわめて不徹底の状態にあること、および我々の今日および今日までの境遇がかの強権を敵としうる境遇の不幸よりもさらにいっそう不幸なものであることをみずから承認するゆえんであるからである。
今日我々のうち誰でもまず心を鎮《しず》めて、かの強権と我々自身との関係を考えてみるならば、かならずそこに予想外に大きい疎隔《そかく》(不和ではない)の横たわっていることを発見して驚くに違いない。じつにかの日本のすべての女子が、明治新社会の形成をまったく男子の手に委《ゆだ》ねた結果として、過去四十年の間一に男子の奴隷《どれい》として規定、訓練され(法規の上にも、教育の上にも、はたまた実際の家庭の上にも)、しかもそれ
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