さけび声……
海には信夫翁《あはうどり》の疫病……
あ、大工《だいく》の家では洋燈《ランプ》が落ち、
大工の妻が跳《と》び上る。
騎馬の巡査
絶間《たえま》なく動いてゐる須田町の人込《ひとごみ》の中に、
絶間なく目を配って、立ってゐる騎馬《きば》の巡査――
見すぼらしい銅像のやうな――。
白痴の小僧は馬の腹をすばしこく潜《くぐ》りぬけ、
荷を積み重ねた赤い自動車が
その鼻先を行く。
数ある往来の人の中には
子供の手を曳《ひ》いた巡査の妻もあり
実家《さと》へ金借りに行った帰り途《みち》、
ふと此《こ》の馬上の人を見上げて、
おのが夫の勤労を思ふ。
あ、犬が電車に轢《ひ》かれた――
ぞろぞろと人が集る。
巡査も馬を進める……
はてしなき議論の後(一)
暗き、暗き曠野《くわうや》にも似たる
わが頭脳の中に、
時として、電《いなづま》のほとばしる如《ごと》く、
革命の思想はひらめけども――
あはれ、あはれ、
かの壮快《さうくわい》なる雷鳴《らいめい》は遂《つひ》に聞え来らず。
我は知る、
その電に照し出さるる
新しき世界の姿を。
其処《そこ》にては、物みなその
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