考へを起さんで呉れ給へ。今までも君と談合《かたりあ》つた通り、現時の社會で何物かよく破壞の斧に値せざらんやだ、全然破壞する外に、改良の餘地もない今の社會だ。建設の大業は後に來る天才に讓つて、我々は先づ根柢まで破壞の斧を下さなくては不可《いかん》。然しこの戰ひは決して容易な戰ひではない。容易でないから一倍元氣が要《い》る。元氣を落すな。君が赤裸々で乞食をして郷國《くに》へ歸るといふのは、無論遺憾な事だ、然し外に仕方が無いのだから、僕も賛成する。尤も僕が一文無しでなかつたら、君の樣な身體の弱い男に乞食なんぞさせはしない。然し君も知つての通りの僕だ。ただ、何日か君に話した新田君へ手紙をやるから新田には是非逢つて行き給へ。何とか心配もしてくれるだらうから、僕にはアノ男と君の外に友人といふものは一人も無いんだから喃《なあ》。」と云つて、先刻差上げた手紙を書いてくれたんです。それから種々《いろ/\》話して居たんですが、暫らくしてから、「どうだ、一週間許り待つて呉れるなら汽車賃位出來る道があるが、待つか待たぬか。」と云ふんです。如何《どう》してと聞くと、「ナーニ此僕の財産一切を賣るのサ。」と云ひます
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