るといふことは無い。皆何等かの意味で關聯してる。さうして其の色んな事件が、また、何等かの意味で僕の野心の實現される時代の日一日近づいてる事を證據立ててゐるよ。僕は幸ひにして其等の事件を人より一日早く聞くことの出來る新聞記者だ。さうして毎日、自分の結論の間違ひで無い證據を得ては、獨りで安心してるさ。』
『君は時代、時代といふが、君の思想には時代の力ばかり認めて、人間の力――個人の力といふものを輕く見過ぎる弊が有りはしないか? 僕は佛蘭西の革命を考へる時に、ルッソオの名を忘れることは出來ない。』
『さうは言つて了ひたく無いね。僕はただ僕自身を見限つてるだけだ。』
『何うも僕にははつきり呑め込めん。何故自分を見限るんか? それだけ正確と信ずる結論を有つてゐながら、其の爲めに何等實行的の努力をしないといふ筈は無いぢやないか? 僕は人間の一生は矢張自己の發現だと思ふね。其の外には意味が無いと思ふね。』
『さうも言へないことは無いが、さうばかりでは無いさ。生殖は人間の生存の最大目的の一つだ。可いかね? 君の言葉をそれに適用すると、墮胎とか、避姙とかいふ行爲の説明が出來ないことになる。』
『それとこ
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