つてのは僕の處世のモットオだもの。』
『これで先《ま》あ安井の批評は片が附いた譯か。――それあ當らなかつたのは無理が無いね。第一僕等は、君がこんな巧妙なる説話者だとは思ひ掛けなかつたからなあ。』
『巧妙なる説話者か! 餘り有難い戒名でも無いね。』
『はゝゝ。――それからも一つは何うなんだ? 野心家だつて方は?』
『ストライキの大將か! それも半當りだね。――いや、矢つ張り當らないね。』
『然し君が何か知ら野心を抱いてる男だつてことは、我々の輿論だよ。』
『何んな野心を?』
『それは解るもんか、君に聞かなけれあ。』
『僕には野心なんて無いね。』
『そんな事が有るもんか。誰だつて野心の無い者は無いさ。――野心と言ふのが厭なら希望と言つても可い。』
『僕には野心は無いよ。たゞ、結論だけはある。』
『結論?』
『斯くせねばならんと言ふのではなく、斯く成らねばならんと言ふ――』
『君は一體、決して人に底を見せない男だね。餘り用心が深過ぎるぢやないか? 底を見せても可い時にまで理窟の網を張る。』
『底? 底つて何だ? 何處に底があるんだ?』
『心の底さ。』
『そんなら君は、君の心の底はこれだつて僕
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