識の勃發は我々の家庭組織を不安にしてる。――不安にしてるが、然し、家庭其のものを全然破壞するほど危險なんぢやないぜ。之は僕は確實に主張するよ。――これだけは君も認めるね? 今は昔と違つて、未亡人の再婚を誰も咎めるものはないからな。それから何んだ、何方か一人が夫婦關係を繼續する意志を失つた際には、我々はそれを引止める何の理由も有たん。――之は君の言葉を一寸拜借したんだぜ。此間佐伯が細君に逃げられた時、君はさう言つたからな。――尤もこれらは誰にも解る皮相の事さ。然し兎も角、我々の夫婦といふものに就いての古い觀念が現状と調和を失つてるのは事實だ。今もさうだがこれからは益々さうなる。結婚といふものゝ條件に或修正を加へるか、乃至は別に色々の但書を附加へなくちやあ、何時まで經つてももう一度破れた平和が還つて來ない。考へて見給へ。今に女が、私共が夫の飯を食ふのはハウスキイピングの勞力に對する當然の報酬ですなんて言ふやうになつて見給へ。育兒は社會全體の責任で、親の責任ぢや無いとか、何とか、まだ、まだ色々言はせると言ひさうな事が有るよ。我々男は、口では婦人の覺醒とか、何とか言ふけれども、誰だつてそんなに
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