何といふ皮肉な眼だらうと私は思つた。
『君らしいぢやないか。』
 高橋はごろりと仰向けて臥て了つた。そして兩手を頭に加《か》ひながら、
『君等は一體僕を何う見てるのかなあ。何んな男に見えるね? 僕は何んな男だかは、僕にも解らないよ。――誰か僕の批評をしとつた者は無いか?』
 私は肩の重荷が輕くなつて行くやうに感じた。此處から話が變つて行くと思つたのだ。
 そして、思出した儘に、我々がまだ高橋と親しくならなかつた以前、我々の彼に就いて語つたことを話して聞かせた。例の體操教師の一件だ。そればかりではない。高橋が話の途中から起き上つて、恰度他人の噂でも聞くやうに面白さうにしてゐるのに釣り込まれて、安井の言つた無駄口までつひ喋つて了つた。――後で考へるに、高橋が其の時面白さうにしてゐたのも無理は無い。彼は自分に關する批評よりも、其の批評をした一人、一人に就いて何か例の皮肉な考へ方をしてゐたに違ひない……
 が、私の話が濟むと、彼は急に失望した樣な顏をして、また臥轉んで了つた。そして言ふには、
『其の批評は、然し、當つてると言へば皆當つてるが、當らないと言へば皆當らないね。』
『ははは。それはさ
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