》の長城《ちょうじょう》を二重《ふたえ》にして、青く塗った様なもんだね』
『何処で芝居を演《や》るんだ?』
『芝居はまだだよ。その壁がつまり花道なんだ』
『もう沢山だ。止《よ》せよ』
『その花道を、俳優《やくしゃ》が先《ま》ず看客を引率して行くのだ。火星じゃ君、俳優《やくしゃ》が国王よりも権力があって、芝居が初まると国民が一人残らず見物しなけやならん憲法があるのだから、それはそれは非常な大入《おおいり》だよ、そんな大仕掛《おおじかけ》な芝居だから、準備にばかりも十カ月かかるそうだ』
『お産をすると同《おんな》じだね』
『その俳優《やくしゃ》というのが又|素的《すてき》だ。火星の人間は、一体僕等より足が小くて胸が高くて、そして頭が無暗《むやみ》に大きいんだが、その中《うち》でも最も足が小くて最も胸が高くて、最も頭の大きい奴が第一流の俳優《やくしゃ》になる。だから君、火星のアアビングや団十郎は、ニコライの会堂の円天蓋《まるてんじょう》よりも大きい位な烏帽子《えぼし》を冠《かぶ》ってるよ』
『驚いた』
『驚くだろう?』
『君の法螺《ほら》にさ』
『法螺じゃない、真実《ほんと》の事だ。少くとも
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