火星の芝居
石川啄木
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)昨夜《ゆうべ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)又|素敵《すてき》だ。
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『何か面白い事はないか?』
『俺は昨夜《ゆうべ》火星に行って来た』
『そうかえ』
『真個《ほんと》に行って来たよ』
『面白いものでもあったか?』
『芝居を見たんだ』
『そうか。日本なら「冥途《めいど》の飛脚」だが、火星じゃ「天上の飛脚」でも演《や》るんだろう?』
『そんなケチなもんじゃない。第一劇場からして違うよ』
『一里四方もあるのか?』
『莫迦《ばか》な事を言え。先《ま》ず青空を十里四方位の大《おおき》さに截《き》って、それを圧搾して石にするんだ。石よりも堅くて青くて透徹《すきとお》るよ』
『それが何だい?』
『それを積み重ねて、高い、高い、無際限に高い壁を築き上げたもんだ、然《しか》も二列にだ、壁と壁との間が唯五間位しかないが、無際限に高いので、仰ぐと空が一本の銀の糸の様に見える』
『五間の舞台で芝居がやれるのか?』
『マア聞き給え。その青い壁が何処《どこ》まで続いているのか解らない。万里《ばんり
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