家の中に隨分やる人がある。寧ろ驚く位ある、然し恁※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《こんな》に脱字の多いのは滅多にない。要らぬ事とは思ひながら數へてみると、二十首の中に七箇所の脱字があつた。三首に一箇所の割合である。
○歌つてある歌には、母が病氣になつて秋風が吹いて來たといふのがあつた。僻心《ひがみごころ》を起すのは惡い/\と思ひながら何時しか夫《それ》が癖になつたといふのがあつた。十八の歳から生活の苦しみを知つたといふのがあつた。安らかに眠つてゐる母の寢顏を見れば涙が流れるといふのがあつた。弟の無邪氣なのを見て傷んでゐる歌もあつた。金といふものに數々の怨みを言つてゐるのもあつた。終日の仕事の疲れといふことを歌つたのもあつた。
○某君は一體に粗忽《そゝつか》しい人なのだらうか? 小學校にゐた頃から脱字をしたり計數を間違つたり、忘れ物をする癖があつた人なのだらうか? ――恁※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]事を問うてみるからが既に勝手な、作者に對して失禮な推量《すゐりやう》で、隨つてその答へも亦勝手な
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