予もまた常に一つの悲しみ……其温かい關係の續いてゐるのは、予が予自分の爲にでなく、火事といふ全く偶然の出來事の爲に去つたからだといふ悲しみを以て、その關係を了解し、追想し感謝してゐる。隨つて、予は予の一歌集を公にするに當つても、心ひそかに或好意をその懷しき土地に期待してゐたことは、此處に白状するを辭せざる所である。しかも其好意の愈々事實として現はるゝに及んで、予は遂に予の有する語彙の如何に感謝の辭に貧しいかを嘆かずにはゐられなかつた。予は彼《か》の君の長い/\親切な批評と、それから彼の廣告の載つた新聞を友人に示した時の子供らしい誇りをも、單に子供らしいといふことに依つて思ひ捨てたくはなかつたのである。……然し此事に就いては既に君に、又大硯君にも書き送つた筈である。それに對する君の返事も受取つてゐる。予はもうこれ以上に予に取つて極めて不慣れなる御禮の言葉を繰返すことを止めよう。
さて予は今君に告ぐべき一つの喜びを持つてゐる。それは外ではない。予が現在かういふ長い手紙を君に書き送り得る境遇にゐるといふ事である。予は嘗て病氣……なるべく痛くも苦しくもない病氣をして、半月なり一月なり病院とい
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