ょ》になり、どうかすると亭主の頭に手をやりかねないようになるのがあるものだ。苺もそれで、花のうちはあんなにつつましいが、一度実を結ぶと、だんだん肥えて赤ら顔になり、よそ事ながら気恥かしくなるほど尻も大きく張って来るものだ。
その苺もやがて紅く熟して来る。
むかし、江蘇の汪※[#「王+宛」、第3水準1−88−10]が清朝に二度勤めをして、翰林編修になっていた頃のことだった。あるとき客と一緒に葡萄を食べたことがあった。葡萄は北京の近くで採れたもので、大層うまかった。北の方で生れた客は、ところ自慢から※[#「王+宛」、第3水準1−88−10]にむかって、
「うまいですな。お故郷《くに》の江蘇にも、何かこんな果物のいいのがおありでしょうか。」
と訊いたものだ。すると、汪※[#「王+宛」、第3水準1−88−10]は、
「私の故郷にですか。故郷には、夏になると楊梅が、秋になると柑子が熟しますよ。こんなことを話してるだけでも、口に唾《つばき》が溜ろうという始末で……もしか自分でそれをちぎった日には……」
といって、夢でも見ているような眼つきをしていたそうだが、それから暫くすると、急に病気だとい
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