ように毛むくじゃらな泥蟹であろうと、狡猾な水禽であろうと、または無干渉な大空そのものであろうと、そんなことは蟹にとってどちらでもいいのだ。

 蟹は唯反抗し、威嚇さえすれば、それで充分なのだ。
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   海老

     1

 潮干狩の季節が来た。
 潮干狩に往って、貝を拾い、魚を獲るのは、それぞれ異った興味があるものだ。海の中も不景気だと見えて、いつもしかめっ面をしている蟹をからかったり、盗人のように夜でなければ出歩かない擁剣蟹《がざみ》を砂の中から掘出したり、富豪《かねもち》のように巣に入口を二つ持っていて、その一つを足で踏まれると、きっと裏口から飛び出す蝦蛄《しゃこ》を押えたりするのもおもしろいものだが、それよりも私の好きなのは、車海老を手捕りにすることだ。
 遠浅な海では、引潮の場合にあまり遊びが過ぎて帰り遅れた魚や、海老などが、そこらの藻草や、砂の窪みにかいつくばって、姿を隠しているのがあるものだ。そんなのを何の気もつかずに踏むと、足の下から海老があわてて跳出すことがよくある。
 海老は弾き豆のように勢いよく飛出すが、あまり遠くへは行かないで、きっとまたそこら
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