うの実が、かすかに揺れている。寒い冬を越し、年を越しても、まだ落ちないでいるのだ。
小鳥の眼のような、つぶらな紅い実が揺れ、厚ぼったい葉が揺れ、茎が揺れ、そしてまた私の心が微かに揺れている……
謙遜な小さきまんりょうの実よ。お前が夢にもこの夕ぐれ時の天鵝絨《ビロード》のように静かな、その手触りのつめたさをかき乱そうなどと大それた望みをもつものでないことは判っている。いや、お前の立っているその木かげの湿っぽい空気を、自分のものにしようとも思うものでないことは、よく私が知っている。
お前はただ実の赤さをよろこび、実の重みを楽んでいるに過ぎない。お前は夕ぐれ時の木蔭に、小さな紅提灯をともして、一人でおもしろがっている子供なのだ。
持って生れたいささかの生命をいたわり、その日その日をさびしく遊んで来たまんりょうよ。
またしても風もないのに、お前の小さな紅提灯が揺れ、そしてまた私の心が揺れる。
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小鳥
春の彼岸過ぎのことだった。
どこをあてどともなく歩いていると、小さな草の丘に出て来た。丘は新芽を吹き出したばかりの灌木に囲まれていて、なかに円く取り残された空
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