れほどありますかな。一向測ってみないもんですから……」
「へえ、折角あんなに伸びてるものを、それでは少し無関心に過ぎるじゃありませんか。しかし、ほんとうのことをいうと、糸瓜を植えて楽しもうという心は、寸を測るなどは、無用の沙汰とするかも知れませんね。」
M氏の言葉には、自然物に親んで、自分の心を癒そうとするもののみが知る愛と抛擲とがあった。
2
私が糸瓜の長さを測ってみようともしないのは、今年のものは去年のに較べて、一体に出来が悪く、寸が短いからでもあった。
去年のものはすべて出来がよく、おまけに素直で、どれ一つ意地くね悪く曲りくねろうとはしないで、七尺豊なものが背筋を並べて、すくすくと棚からぶら下っていた。
なかに一番長いのは、尖った尻のさきが土にとどきそうになっていたので、まさかの時の用意に、家のものが摺鉢形に地べたを掘窪めていたことがあった。
ある日、たずねて来た若い英文学者のI氏は、それをみるとにやにや笑い出した。
「ほう。糸瓜の下が円く掘下げられていますね。あれを見ると、僕うちの親父が上野の動物園にいた時分のことを思い出しますよ。」
「おとうさんは、動
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