ト、雨の雫を拭きとりました。「ところで、だしぬけに変なことを訊くようだが、お前、人間に近づきがあるそうだな。」
「人間にか。人間には幾人《いくたり》か近づきがあるよ。」雨蛙は相手の気色を見てとって、すっかり機嫌をなおしたようでした。「おれが歌の稽古をつけてもらったのも、やっぱり人間だったよ。」
「ほう、歌の稽古を……」
雨蛙は以前山に棲んでいた頃、程近い人家にまぎれ込んで、竹製の刀架《かたなかけ》の孔のなかにもぐり込んでいたことがありました。ちょうど春雨の頃で、雨の音を聞きながら、口から出まかせの節で歌を唱っていると、急に座敷の方から美しい笛の音が流れて来ました。それにつれて歌を合わせていると、自分の咽喉がびっくりするほど滑らかに調子に合って来たことを、雨蛙は気づきました。そんなことを四、五日繰りかえしているうちに、雨蛙はだんだん芸が上達して、その刀架の孔から、広い世間へ這い出して来た折には、もういっぱしの歌唱いになっていました。
雨蛙は今その話を蝸牛にして聞かせました。雨除け眼鏡をはめた友達は、すっかり感心しました。
「そしてその家の主人の名前は……」
「柳田将監という笛の名人だ
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