ヘそれを見て、憤怒のまだ消え切らない口もとをへし曲げるようにして、ちらと微笑しました。先刻から探幽の恐しい筆使いを見て、どうなることかと気遣っていたらしい松平家の家来たちは、お互いに顔を見合せて、腹の底より感心したらしい溜息を洩しました。
 そこへ主人の信綱が、以前と打って変って慇懃なものごしで、にこにこしながら出て来ました。
「先刻はいかい失礼をいたした。気持に感激がないと、いい絵は出来難いものじゃと聞いたので、ついその……」
 探幽は初めて信綱が自分に無礼を働いたわけに気がつきました。それと同時に、知慧自慢の伊豆守がこの画の前に立って、誰彼の容赦なく、作者を怒らせて描かせた吾が趣向を語って聞かせるだろう、その得意らしい顔つきが、気になってなりませんでした。で、負けぬ気になって次のように言いました。
「素人衆は一途に感激のことを申されますが、画家にとって大切なのは感激よりも、その感激に手綱をつけて、引き締めて往く力でございます。この絵もそれを引き締めるのに大分骨が折れましたが、まあ、どうかこうか……」
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   人間というもの
     少年少女のために

     1

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