謔ェしに言ったかと思うと、いきなり足の爪先でそこにあった硯を蹴飛ばして、そのまま次の間に姿を隠しました。墨汁は画絹は言うに及ばず、探幽の膝から胸のあたりまで飛び散りました。まるで気の狂った泥鼠が乱暴を働いた後のようでした。探幽はむっとしました。
「あまりといえば乱暴ななされ方だ。」
 真青に顔の色を変えて、そのまま立ち上って帰ろうとしました。それを見た松平家の家来たちは、てんでに言葉をつくして平謝りに謝りました。このまま探幽を帰しては、居合す家来たちの大きな手落となると聞いては、探幽もむげに我を通すわけには往きませんでした。彼はしぶしぶ座に帰って、また画絹の前に坐りました。
 伊豆守の無礼だけは、どうしても免すわけに往かぬと探幽は思いました。膝から胸のあたりに飛び散った生々しい墨汁の痕を見ると、彼は身内が燃えるように覚えました。このいらいらしい気持から遁れるには、湧き返る憤怒をそのまま、画絹へ投つけるより外にはありませんでした。探幽は顫える手に絵筆を取り上げて、画絹と掴み合うような意気込で、雲龍の図にとりかかりました。

 程なく画は描き上げられました。それはすばらしい出来でした。探幽
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